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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)20号 判決

京都府宇治市神明石塚七七番地の七

上告人

森惣一

右訴訟代理人弁護士

松村美之

京都府宇治市大久保町北山一六番地の一

被上告人

宇治税務署長 今堀和一良

右指定代理人

川口秀憲

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五〇年(行コ)第一五号所得税更正決定処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五二年一一月一〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人北村美之の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 横井大三 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環昌一)

(昭和五三年(行ツ)第二〇号 上告人 森惣一)

上告代理人松村美之の上告理由

第一、原判決には審理不尽並びに理由不備の違法がある。

一、本件の争点は、上告人及び森伊三男共有であつた別紙物件目録一、二記載不動産(但し、上告人が茶園として使用していた五〇三坪の土地部分)が、租税特別措置法第三八条の六(昭和四四年法津第一五号による改正前のもの、以下旧措置法という)の適用を受ける事業用資産であつたか否かである。

二、原判決は右の点につき、上告人は本件土地のうち茶畑部分等から茶を多少摘取り、これを自宅で小売し、昭和三九年、四〇年度は茶収穫による所得を申告しているがその茶畑に対する排他的な占有を有していたとは認められず、かえつて訴外高田(高谷の書き間違いと思われる)らが本件土地を開拓し、以来茶の木を植栽する等して占有を継続してきたと認めるのが相当であり、前記のような事実関係のもとに於ては、上告人が自ら、農業用として収入を得る為耕作していたものとは認められないとして、本件土地の事業用譲渡資産性を否定した。

三、しかし一方原判決は、訴外山本、青山、田和らが茶を植栽したものの上質のものが取れなかつたこと、山本等は時効取得を主張する訴訟の維持の為占有を意識していたが、実際には、茶の木が伸びないよう剪定する程度で特に茶摘みをすることがなかつたことを認定しているのである。

つまり、原判決は上告人が実際茶を摘み、自宅で小売に供し、且つ小売による売上所得を申告している事を認定しているのに反し、訴外山本等にはかかる事実がない事を認めているのである。両者を比較して、どちらが農業用として収入を得る為耕作していたかを比較すると、上告人の方に一方的に認められるだけである。

原判決は、訴外山本等が茶採取による収益を計る意思がなく、又長期の訴訟の為に耕作継続の意欲をなくし、昭和三七年ごろより本件土地の占有を放棄していた事実を見落しただけでなく、上告人の茶摘みの事実並びに収益の事実を認定しながら、本件土地の事業用資産性を否定するという理由不一致の結論を導き出している。

四、よつて、原判決は当然破棄されるべきである。

第二、原判決は、旧措置法第三八条の六の事業用譲渡資産の解釈適用を間違えた違法がある。

一、事業用譲渡資産は、個人の有する資産で、事業の用に供しているものをさすと解せられるが、事業の用に供しているものか否かはその資産の取得時期、取得目的、取得者の営む事業との関連性、使用状況等を総合的に判断して決せられるべきである。

二、原判決は、上告人が本件土地で茶摘みを始めたのは、訴外山本等、茶の植栽者が放置しているので、もつたいないと考えたのが動機であるが、肥料を施したようなことはないこと、本件土地から茶を摘み取り、自宅で小売販売し、昭和三九年、同四〇年の所得申告をしているがその内容は、上告人自身の申出によるものではなく、税務吏員が上告人と面談して記載したものなること、上告人が本件土地を排他的に占有していたものでないこと等の理由から、上告人が自ら農業用として収入を得る為耕作していたものとは認められないとしている。

三、しかし、上告人は本件土地を購入した昭和三一年一一月当時、農業を主として行ない、且つ宇治町農地委員を勤める様な有力農家であつて、本件土地購入の当初の目的は、農地委員会の手続ミスで本件土地が開懇者たる訴外山本等の所有にならなかつた為上告人自ら、前所有者平田是竜外一名より本件土地を買収し、これを訴外山本らに売渡して事態を収拾しようとしたが、山本らがこれを応じなかつた為、やむなく自ら耕作するつもりで本件土地を買受け、上告人が耕作を実行する為、右山本等に土地明渡請求訴訟を提起したものである。

従つて、本件土地は農地を営む上告人が農耕用に買入れたものであつて、たまたま本件土地の開拓者山本等が本件土地を不法占有していた為、当初農耕は出なかつたが、その後明渡訴訟の長期化に伴い、昭和三七年ごろより一人だけの占有者を除いて、その余の不法占有者が本件土地を放置した為、上告人自ら、そこに植栽された茶の木から新芽を摘む様になり、ここに於て所有者たる上告人自身の土地利用が可能となつたのである。

以上からすれば、本件土地は上告人にとつて、その取得目的、取得者の事業、使用状況全てに照らしてみても、まさに事業用のものであつて、事業の用に供した資産といいうるものである。

原判決は、本件土地が上告人の排他的占有に属していたか否かをメルクマールとして事業用譲渡資産性を判断している様であが、事業用資産は排他的占有の有無によりその適用不適用を考えるべきでなく、その資産の所有者が、現実にその資産、又は収益の為に利用した事実があるかないかにより判断せられるべきで、原判決の様に、事業用譲渡資産を狭く解釈する必要はないと思料する。

四、よつて、上告人が茶摘みをし、現実に本件土地利用をしていた事実が認められるものであるから、本件土地について事業用譲渡資産性が是認されてしかるべきである。

以上

(別紙目録省略)

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